TYPE-MOON & Nightlose PRESENTS(嘘)

ぎ、と言う音と共に目の前で火花が散った。続いて鈍く重い感触。少しでも力を抜けばタダではすまない──俺は必死に脚と腕に力を込めて歯を食いしばる。
「は──!」
 夜の闇に白い呼気。それが霞んで消える寸前に、目の前の人影がぶれる。──右の耳に、鋭い音。瞬間俺は咄嗟に右手を持ち上げ、恐ろしいほど正確に体の一点を突こうとしてくる刃を受け止めた。
 パ、キン────
 あっけないほど簡単に、手にした双刀の片割れが割れ、そして崩れる。
「投影(トレース)──」
 左に手にした刃を牽制代わりに突き出しながら、俺は魔術回路に魔力を通し──
「──開始(オン)!」
 ──っギイン!
俺の右の手の中に瞬時に出現した刀が、相手の持った小刀と交差し、押し合う。ぎ、と鈍い重い音。
 ふと気づけば相手の顔が、鼻の触れ合う距離に合った。
 黒い髪の、鋭すぎる眼差しの男。年は俺とそう変わらないんじゃないだろうか──ただ、身に纏うその気配はまるで別格。危険、危険、キケン──頭の中のどこかが警鐘を鳴らしている。このオトコは危険だと。
「……厄介だな」
 ち、と。小さく舌を鳴らしてそいつは交差しあったナイフの先端を、ずるり──とわずかにずらした。
 瞬間、またもやあっけなく、俺の手にした刃が崩れて消滅する──
「なんなんだ、それ──!?」
 叫びながら身を沈めた。と思ったときにはすでに視界いっぱいに相手の手が飛び込んできていた。逃げるというよりは転げるように体を転がし、それを回避。──まずい、一旦距離を取らないと。この相手に接近戦は危険すぎる……!
「投影──開始!」
 本日何度目かの投影魔術で、俺は漆黒の弓を生み出した。アイツ(・・・)が使っているような、カーボン製の代物だ。そして手にしていた双剣の片割れを、迷わず男に向かって投げつける。相手がそれを回避するために足を止めたのを確認してから、俺はまた呪文を唱えた。手に生み出されたのは捻れた剣。それを矢へと変換し、弓につがえ──
「──偽・螺旋剣(カラド・ボルグ)!」
 鋭い光が収束し、男へ向かって一直線へ伸び──
──ゆるり、と。男の身がよじれ、その手がブレたと思うと。
 矢が、二つに割れた。
「な────!?」
 かっ──!
男は背後に二つの爆発をたゆたせながら、ただ立ち尽くしていた。
「ふう──さすがに今のは危なかったな」
 黒髪を揺らしながら、男はうひゃーと振り返る。
「全く、ワケがわからないけどさ。まあでも──やめる気はないんだろ?」
「……ああ、勿論だ」
そして、俺もまたきっと笑っていた。
──男はナイフを逆手に構え、
──俺は両手に8本の黒鍵を生み出す。
そして。
『いくぞ──!』
 いまだ轟く爆発の中、二つの影が大地を蹴った──。



Prologue of ──── 


黒い回廊の中、一人の男と一つの声が空ろに響く──
「──英霊のシステムは理解しているか? そう、それは世界の齎すシステムの一つだ。過去において英雄となった者がその死後──ああそうか、その通りだよ。ありていにいえば、彼らは最上級の使い魔だ」



 遠坂の屋敷の地下室。凛の目の前には魔方陣
「──しまった。ああもうなんでこんな時に限って失敗するんだか──」
「……失敗なんて随分ひどい言い草ですこと。とびっきりの幸運が回ってきたといってほしいですわね──?」
 ルヴィアゼリッタ。
「あらミスエーデルフェルト、ここで決着をつけてもよろしいのですよ?」
「望むところです。その口、今すぐ塞いであげましてよ!」



「だがそのシステムは崩壊した。簡単に言えば、セカイは壊れてしまったのだよ」



「なるほど。私はこちら側の役割なのかね」
 くくっ、と皮肉げに笑うのは──アーチャー。ぎんっ、と睨みつけ、出現した影を威圧する。
「それで貴様、何者だ?」
「え? えええ? な、何者って言われても、わたしもなにがなんだか……と、遠野くんー?! ピンチっぽいんだけどー!?」
 わたわたと慌てているのは、弓塚さつき──



「英霊も何も何も関係ない。世界すらも意味をもたない、無秩序たる混沌──」



 霞がかったアインツベルンの城の庭で、イリヤは小さく笑う──
「ふうん。そう、貴女なのね。ところで私のサーヴァントはね、バーサーカーのクラスなの。これがどういう意味かわかるかしら?」
「ええもう、そりゃあわかっていますとも。つまりいつも通りでいい、と。はい、そういうことですよね?」
「姉さんが、黒いです」
翡翠琥珀──



「……本来平行世界同士はごく一部の例外を除いて接触することもましてや融合することもない。ひいては場所や時間軸までもが意味を成さないなど──ああ、そうか。つまりそうだ、その通りだ──」



「なるほど。貴女が私のサーヴァントというわけですか」
バゼットは拳を握り締め、静かに頷く。
「ええ、そのようですね。最も、貴女だけの、というわけではないようですが。……全く、よりにもよってなんでこの尻でか女と」
「あら秋葉さん、胸がないよりはましだと思いませんか?」
 シエルとバゼットがマスター。
「──いいでしょう。今すぐその口きけないように──!」
「上等です、いきますよセブン!」
「お、落ち着いてくださいー!?」



「……さて、私が聞きたいのは一つだけだ」



「なるほど、その眼面白いねえ。だが、アンタみたいなのがいるんじゃオレなんかには出番はないかな──?』
「さてね。けどまあ、やらなきゃならないことなんてのは、もう決まってるわけだしさ」
「ああ、そうだな。ま、せいぜい仲良くやろうや、相棒」
 アヴェンジャー&士貴──



「貴様は何を望み、そして何を私に与えてくれるのかな──?」
「──そうね」
 ゆらり──と、金色の髪が揺れる。



「ああもう、何がなんだか──おいアンタ、何がどうなってるのかわかるか?」
「愚問ですね。私の頭脳にかかればわからないことなどありませんよ。例えば貴方の押入れの奥にしまわれている本の名前であるとか──」
「なんでさっ!?」
 士郎&シオン──



「はじめの問いには、このセカイを終わらせることを。後ろの問いには──」
 金髪の女は赤く笑う。
 そして、もう一人の金髪の女は、剣を床に突き立てたまま眼を閉じ、静かに続きを埋める。
「────祝福された死。つまり……」
「──夢の、終わりよ」
 セイバーの続きを補ったのは、アルクェイド
 そして男は傑作だとでも言うように体をそらし──。
「さあ──始めようか。この道化を。この滅亡を。この終焉を。そして──」
 男は重く深く息を吐き、呼気の隙間から呻く様にして続ける。
「─────この、馬鹿げたモノガタリを」



──モノガタリの幕があける。
用意された駒は16.
役割も何もない、意味すらないコロシアイが今、始まる。
暗い、暗い夜の中で、誰に気づかれるともなく、蠢くようにソレは始まっていた。
ただ一つ、夜空に浮かぶ月だけが──全てを知っていた。

Prologue of “Fatal sky/Unbreakable Sonic Ocean”

──dark moon , broken sword ,and tears──